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小説 「アイドル」

小説を書いてみた。

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「アイドル」

 電話で友人が睡眠薬を100錠飲んで首を吊ろうと自殺未遂をしたと聞いて、僕は彼に会いに行った。渋谷の交差点に彼はいた。僕たちは歩きながら、会話をした。
「お前、死ぬなよ。」と僕は言った。彼は、
「えっ。」と恥ずかしそうに笑った。
「仕事がつまらなすぎて、他にも楽しいことが何も無くて、死のうと思ったんですよ。」と、彼は言った。僕は、
「そうか。」と、答えた。
 そのあと、僕たちは歩きながら職場の話や、ともだちの話をした。レコード屋へ行ってみたけれど、大して欲しい物は置いていなくて、公園で時間を潰して、家に帰った。そのあいだ、自殺の話はもう出なかった。
 翌週の夜、僕は池袋のクラブで泥酔していた。テキーラとロンリコを一気飲みして、踊っていた。顔がぶくぶくに腫れ上がって、皮膚が麻痺をして、僕は嘔吐を我慢できず、店を出た。外はすでに明るかった。
 その日はマイケルジャクソンが死んだ日だった。死因は痛み止めの薬を飲み過ぎて心臓停止だった。彼はたくさんの人の話題になって、残念だの、悲しいだのと言われていた。テレビでは「マイケルはなぜ死んだのか」という追悼番組が放送されていて、日本のおじさんが議論をしていた。これはひとつの偶像崇拝が世の中に表れているな。そういえばアイドルは偶像という意味じゃあないか。はは、なるほど。ポウッ。と考えながら始発電車の中で口に溜まった吐瀉物を飲みこんだ。
 おーいお茶を片手に優先席を2席使って倒れていると、人の声が聞こえてきた。
「うわあ、超寝ているんだけど。よだれ垂れているし。」
「息ができているのかなあ。」
「タケルさんにそっくり。タケルさんの方が可愛いけれど。でも顔の崩れ具合が似てる。」
『カシャッ』
 僕は観察されていることに気がつき、起き上がった。仕返しにこっちから観察をしてやろうと思い、彼女達のことを直視した。
 そこには、よく喋る気の強い女の子がひとりいるだけで、他の子達は僕が起き上がった事におびえていた。女子が5人と男子が1人の学生の集団だった。飲み会の帰り道のようだった。
気の強い女の子は
「写真撮ったからすごい見てるんだけど!」と、言った。
僕は黙ってその子達の直視を続けた。
男子はおびえて、
「もうやめようよ。そういうの。」と、言った。
僕は静かにおーいお茶を飲んだ。
「すごい目が合ってる!」
 あまりにもその女の子が明るく楽しそうだったので、僕は、不覚にも、ニヤリと笑ってしまった。
「口元が笑ってる!」
 僕は泥酔者のアイドルとして、黙って静かに手を振ってみた。静かな可愛い女の子が1人、手を振り返してくれた。それから僕と可愛い女の子と強気な女の子と3人は静かにお互いの直視を続けた。沈黙が過ぎたころ、
「どうします?このまま3人で見つめ合う?」と、気の強い女の子は言った。
僕はクスリと笑った。それを見て彼女は大笑いをした。
 自宅の最寄り駅に電車が着いたので、僕は立ち上がった。
僕は出口へ向かいながら、「降りるよー。じゃあねー。」と初めて言葉を発した。
彼女達は「じゃあねー」と答えた。さっきまでおびえていたはずの男子が「お名前はなんですか?」と聞いてきた。
僕は「うるせえ、馬鹿、死ね」と答えた。彼は、「ははは」と笑っていた。

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